こんにちは、ねりきりです。
調停や審判で使える養育費の主張書面用テンプレートです。
婚姻費用の計算式と主張書面テンプレート(令和元年新算定表対応版)の続きです。
セットで読んでいただけるとありがたいです。
家族や離婚体験談の人物紹介はこちらをどうぞ。
養育費とは
親は未成熟子(経済的にまだ自立できていない子ども)に自分と同等の生活をさせなければならないとされています。
自分が贅沢な生活をしているのに子どもに貧困を強いることは決して許されない、子どもの育成には必ず責任を持たなければならない、ということです。
養育費は生活保持義務です。
たとえ借金があったとしても、破産したとしても、決して逃れることはできない、とても厳しい義務なのです。
養育費の請求
養育費は未成熟の子を持つ夫婦が離婚する際に取り決めるべきことの一つです。
しかし、協議で話し合いがまとまらない場合、以下のような調停で金額や支払い方法などの具体的な内容を決めることができます。
- まだ離婚していない夫婦が、離婚後の養育費について話し合う場合→夫婦関係調整調停(離婚調停)
- すでに離婚したもと夫婦が、養育費について話し合う場合→養育費請求調停
養育費は長期に渡って支払われることが多いので、一度決まった養育費を年収が下がったから減額してほしいとか、子どもが進学するので増額してほしいなどと、変更を求めたい場面があることと思われます。
そんなときも、養育費請求調停で増額や減額を求めることができます。
養育費請求調停が不成立になると自動的に審判に移行し、裁判官が養育費を取り決めることになります。
参考:裁判所|養育費請求調停
養育費ついて決めるべきこと
養育費については以下のことを決める必要があります。
養育費の金額
算定表や計算式で求めた金額が目安になりますが、子どもに持病があったり、私立校に通っている場合などなど事情がある場合は増額されることもあります。
支払終期
養育費の支払い終期は法律で決まっているわけではありません。
裁判所の実務では「子供が成人するまで」が終期となることが多いですが、大学を卒業する22歳までとすることもありますし、高校卒業後就職する場合には18歳になることもあります。
2022年4月から、法改正により成年年齢が引き下げられ18歳から成人になります。
養育費の取り決めの重要性が増すことと思われます。
参考:政府広報オンライン|18歳から“大人”に! 成年年齢引き下げで 変わること、変わらないこと。
養育費をどのように支払うか
月払いで振り込みが一般的だと思われますが、短期間のまとめ払いにしてもらえたら未払いの不安も減りますし、支払われる側にとってはありがたいですよね…。
主張書面テンプレート
以下のモデルケースで主張書面を作成した場合の例になります。
あとで詳しく説明しますが、数値やお子さんの人数などは、ご自分の状況に合わせて計算式を修正してくださいね。
申立人=養育費を請求している人、つまり支払われる側
職業 パート
年収 昨年は100万円
別居後仕事を増やしたため現在は月収約12万円。年収も増える見込み
同居の子 2人(高校生16歳、小学生12歳)
相手方=支払義務者、つまり支払う側
職業 会社員
年収 500万円
同居の子 なし
テンプレート
主張書面
第1 養育費の支払終期について
申立人(平成〇年3月私立〇〇大学を卒業)および相手方(平成××年3月私立××大学を卒業)はいずれも4年生大学を卒業しており、両親の学歴、経歴、相手方の収入と社会的地位、現在の大学進学率、子どもらの現状、希望等に鑑みれば、養育費の支払終期を4年生大学卒業時とするのが相当である。
この点において、相手方も第△回夫婦関係調整調停において「子ども達の大学進学を応援する」という趣旨の発言をしており、相手方が子どもらの大学進学に同意していた事実は明らかである。
第2 養育費の算定
1 申立人の収入
令和2年1月から5月までの給与の合計は60万円であり(甲1)、1ヶ月平均が12万円であることから、1年間の総収入を144万円(12万円×12ヶ月)とする。
2 相手方の収入
令和元年の源泉徴収票によれば、相手方の1年間の総収入は500万円である(甲2)。
3 養育費
申立人と相手方の総収入および子らの年齢(長男16歳、長女12歳)に基づき裁判所算定表によって養育費を下記の通り計算した。
(1)義務者の基礎収入
500万円×0.42=210万円
(2)権利者の基礎収入
144万円×0.44=63万3600円
(3)子の生活費
義務者の基礎収入(210万円)×子の生活費指数(長男85+長女62)÷義務者と子らの生活費指数(100+長男85+長女62))=124万9798円
(4)義務者が負担すべき子の生活費年額
子の生活費(124万9798円)×義務者の基礎収入(210万円)÷{義務者の基礎収入(210万円)+権利者の基礎収入(63万3600円)}=96万円
(5)月額養育費
96万円÷12ヶ月=8万円
(6)結論
相手方の支払うべき養育費は月8万円が相当である。
以上
支払終期の解説
例文は、私の離婚裁判で実際に提出された書面を参考にしています。
裁判所の実務では養育費の支払終期は「子供が成人するまで」とされることが多いです。
そのため、四年生大学卒業時を支払終期にしたい場合は、相応の理由が必要になってきます。(私としては親の頃と違って今は大学全入時代なんだから、当たり前に大学卒業時を基準にして欲しいものですけどね!怒)
以下のような場合は認められる確率が上がるようです。
- 離婚時にすでに子どもが大学に進学している
- 両親がどちらも大卒
- 子どもが小さい頃から四年制大学に進学することを前提として教育を受けていた
- 支払義務者が子どもの四年生大学進学を認めている
4に関連して、今までは子どもの四年生大学進学を認めていたくせに、離婚が決まった途端考えを翻すような義務者もいます。激怒
そんな場合は、義務者がこれまで認めていた証拠がないか探しましょう。
メールやLINE等のやりとり、SNSでの発信、四年生大学進学を目的とした学資保険の加入などなど、何かないでしょうか?
証拠能力は低いかもしれませんが、できるだけ多くの材料を集めてあなたの主張を補完してくださいね。
子どものために全力を尽くしましょう。
計算式の解説
(1)義務者の基礎収入
まず義務者(モデルケースの場合は相手方=支払う側の人)の基礎収入割合を下表から探します。
モデルケースの場合、相手方は給与収入で500万円なので基礎収入割合42%(0.42)をかけた金額が基礎収入になります。
給与収入(万円) | 基礎収入割合(%) | 事業収入(万円) | 基礎収入割合(%) |
0~75 | 54 | 0~66 | 61 |
~100 | 50 | ~82 | 60 |
~125 | 46 | ~98 | 59 |
~175 | 44 | ~256 | 58 |
~275 | 43 | ~349 | 57 |
~525 | 42 | ~392 | 56 |
~725 | 41 | ~496 | 55 |
~1325 | 40 | ~563 | 54 |
~1475 | 39 | ~784 | 53 |
~2000 | 38 | ~942 | 52 |
~1046 | 51 | ||
~1179 | 50 | ||
~1482 | 49 | ||
~1567 | 48 |
(2)権利者の基礎収入
権利者(モデルケースの場合は申立人=養育費を支払ってもらう側の人)の基礎収入割合を同じ表で探します。
モデルケースの場合、申立人の見込み年収は給与収入で144万円なので基礎収入割合44%(0.44)をかけた金額が基礎収入になります。
※別居後も年収に変化がない方は、昨年の源泉徴収票の「支払金額」を元にすれば大丈夫です。
(3)子の生活費
義務者(支払う側の人)の収入のうち、子どもにわりあてられるべき生活費はいくらになるか計算しています。
まず子どもの年齢に合わせて、生活費指数を割り当てます。
生活費指数は親を100とした場合、子どもは何割の生活費が必要かを示したものです。
子どもの人数や年齢に合わせて赤色マーカーの部分を変化させてください。
義務者の基礎収入(1)×子の生活費指数÷(義務者100+子らの生活費指数)=子の生活費
- 0~14歳の子ども(男の子)が1人の場合は…
長男62 - 15歳以上の子ども(女の子)が1人、0~14歳の子ども(男女)が3人の場合は…
長女85+長男62+次女62+三女62
(4)義務者が負担すべき子の生活費年額
子の生活費は義務者と権利者がそれぞれの収入に応じて分担します。
そのため、ここではそれぞれの基礎収入を按分して、義務者が負担する子どもの生活費の年額を計算しています。
モデルケースの場合だと、義務者と権利者の収入は210:63なので、義務者の負担額は96万円、権利者の負担額はおよそ29万円(年額)となるわけですね。
子の生活費(3)×義務者の基礎収入(1)÷{義務者の基礎収入(1)+権利者の基礎収入(2)}=義務者が負担すべき子の生活費年額
(5)養育費月額
(4)を12ヶ月で割ることで、月々支払われるべき養育費を計算しています。
(6)結論
100の単位を四捨五入します。
その他
黄色マーカーの「甲1」「甲2」の文字は、主張書面とともに提出する証拠の通し番号になります。
この場合は年収を裏付ける書類(給与明細や源泉徴収票のコピーなど)が想定されます。
支払終期についての主張を裏付ける証拠がある場合は、書面に出てくる順に並べて通し番号を振ってください。
上記以外に主張すべきことがあるときは、「第3」「第4」など項目分けして文章を追加しましょう。
その際は、養育費の計算式は後ろにもってくるなどバランスを考えて調整してくださいね。
証拠の提出方法など、詳しくはこちらの記事を参考にしてください。↓
使用上のご注意
このテンプレートは司法研修所編「養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究」で明らかにされている標準的算定方式による計算方式を用いています。
しかし、あくまで私という素人が作成したものですから、思い込み等で誤っているところがあるかもしれません。
あくまで自己責任での使用をお願いいたします。
子どもが私学に通っている場合、持病のある子どもの治療費…などなど特別な事情がある場合は、この計算式でビシッと養育費を出すことはできません。
特に支払いが長期に渡る養育費は、婚姻費用よりも決めなければならないことが多いので、委任するしないに関わらず弁護士に相談されるのが賢明です。
とはいえ、出来るだけ誰かの参考になるようなものにしたいと考えておりますので、お気づきの点等ございましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。
日本の養育費未払い率は7割以上です。
2020年4月に改正民事執行法が施行され、未払い者の財産状況の調査がしやすくなりましたが、まだまだ状況は改善されていません。
国の早急な対策が待たれます。
全ての子ども達が安心して生活できるようになることを心から願っています。