こんにちは、ねりきりです。
【賃貸住宅の退去トラブル】原状回復費用の過剰請求をはねのけ敷金を全額取り戻したお話①(←我ながら長い…)の続きです。
前回の記事では、私が遭遇した退去トラブルの経過をお話ししました。
今回の記事では、具体的な契約の内容などに踏み込んだ話を書いていこうと思います。
敷金返金のご報告と知り合いの話
今週の月曜日、母の施設から敷金がようやく返金されました。(正確には敷金から日割り家賃や母の医療費や薬代を精算した金額です)
およそ2週間にわたる私と母の施設との戦いが終わりました~
こないだ不動産会社に勤務経験のある知り合いに一連の話をしたところ、こんなことを言われました。
原状回復費もハウスクリーニング代も支払う必要なんてないわよ。
私も同じことがあったけど「私以前は不動産会社に勤めてたんですよね」って言っただけで全額返ってきたわ。
振込手数料も向こうもちでwww
私にとっては結構な戦いだったんですけども。
素人の哀しさよ…。
ひと言いうだけで全額返金してもらえるならありがたい。泣
彼女いわく、たとえ賃貸住宅でも長く住めば賃借人の権利の方が強くなる、とのことです。
おさえておきたい裁判所と国土交通省の考え方
私の賃貸契約書の内容を見る前に、原状回復についての裁判所と国土交通書の考え方をおさらいしておきたいと思います。
前記事でも紹介しましたが、平成17年12月16日最高裁判例「敷金返還請求事件」の判決文にはこのように書かれています。
つまり…
①経年劣化や通常の使用によっておこった損耗(物件の傷み)の修繕費は家賃に含まれている
貸主が「含めてないです」と言ってもダメです
②それなのに①の原状回復費用を負担させられるとなると、借りた人にとっては予期せぬ過重負担になる
家賃と一緒に支払ってたのに退去時も…となると、二重に支払わされるってことですからね。
そんなのおかしいでしょ、って話。
③それでも借りた人に原状回復費用を負担させようとするならば、特別な契約が必要になる
誰だって修繕費用を二重に払わされるような不利な契約はしたくないですよね。
それでも貸し主側は契約書があるから正当な契約だ、という。
いやいや、そんな不利で不合理な契約を正当だと認めるためにはそれなりの条件の契約をしてなくちゃダメですよ、と裁判所はいってるわけです
④特別な契約とは少なくともこういうもの↓
- 借りた人が修繕しなければならない損耗の範囲が具体的に賃貸契約書の条項に書かれていること
- 上記を口頭で説明した場合には、借りた人が修繕しなければならない通常損耗の範囲を明確に認識し、それに合意したと認められること
「畳の表替え費用〇〇円」とか「エアコンクリーニング費用△△円」などなど借りた人がどれくらい負担することになるかを明確に想像できなきゃダメなようです。
金額が明記されてなかったとしても、一般的で合理的な価格が予想できるくらいの具体性が必要みたい
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」にももちろん同様のことがより詳細に書かれています。
これが司法と行政の考えということです
ミスリードに注意! 私の契約書の内容
実際の賃貸契約書と重要事項説明書を例に、私が自信を持って交渉できた理由をひも解いていきます。
母の施設の契約書は全7ページの冊子型でした。
長いです!
ちなみに私が今住んでいる家の賃貸契約書はB4用紙裏表。汗
高齢者用住宅だからでしょうが、より注意して読んでおくべきだったな…と反省しています。
以下、今回の退去トラブルに関わると思われる部分の抜粋です。
賃貸契約書
修繕 第〇条
甲(貸し主)は第3項各号に掲げる修繕を除き、乙(借り主)が本物件に使用するために必要な修繕を行わなければならない。この場合において、乙の故意又は過失により必要となった修繕に要する費用は、乙が負担しなければならない…
3.…通常損耗・経年変化であっても次の各号に掲げる修繕については、(乙が)自ら行うものとし、甲は上記修繕義務を免れる。
①畳表の取替え、裏返し
②障子紙の張替え
③ふすま紙の張替え
たとえ経年劣化であっても①~③は借りた人が修理しろ、という内容ですね。
まあ長期間暮らしてたら畳や障子紙も傷むでしょうし、住んでる人が修理してもいいのかな…とも思いますが…、これって一般的な内容なのでしょうか…。
退去時の原状回復とは別なので、混同しないよう注意が必要でした。
原状回復義務 第△条
乙(借り主)が本物件を明け渡す場合においては、乙の故意・過失、善良な管理者の注意義務違反その他通常の使用を超える使用など乙の責めに帰すべき事由により生じた本物件の修繕義務及び甲(貸し主)が被った損害の一切の責めを負うものとする。この場合、乙の修繕義務等の履行については、甲の指定したものがこれを実施し、乙がその費用の償還義務を負うものとする。
その場合、貸し主が指定した修理業者に依頼する。しかし修理費用は借り主が支払うこと、と。
…貸し主にずいぶん有利な内容ですね。怒
「一切の責め」は全て借り主負担になるとうっかり読み違えてしまいそうな文章に要注意です。
重要事項説明書
原状回復に関係する記述は以下の一行のみでした。
契約の解除内容等<退所の手続き>欄
※退所時にはハウスクリーニング・破損箇所の修理を自費でお願いします。
私の見解
賃貸契約書にも重要事項説明書にも、裁判所が求める「通常損耗の範囲」の具体的な記載はありません。
もちろん「口頭による説明」もされていません。
当然「賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められる」ことも不可能です。
つまりこの内容では、裁判所は借り主(つまり私)に原状回復義務があるとは認めないでしょう。
施設側がゴチャゴチャ言ってきても正当性はこちらにある。
いざとなったら裁判してやる
強気で交渉にのぞむことができました。
敷金を全額取り戻すために施設に送った書面の内容
前記事に書いた通り、施設側の主張は当初からどんどんトーンダウンしていきました。
↓
ハウスクリーニング費用のみ請求する。敷金の残金は返金する
いやいや、最高裁判例的にハウスクリーニング費用も支払う義務はないから
ちょっぴり腹が立ったので「あんた達の要求は全くスジが通らない」ことを示すため以下のような書面を送りつけてやりました。
書面(一部抜粋)
母の施設様
敷金からハウスクリーニングを差し引くとのことですが認められません。
ハウスクリーニング見積書に書かれている工事内容は全て、国土交通省の「現状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(平成23年8月発行,以下ガイドラインという)別表1(17頁)より、下表の通りA(+G)[次の入居者を確保するための化粧直し、グレードアップの要素があるもの]にあたり、賃貸人負担とすることが妥当です。
見積書の工事内容 | ガイドラインの区分 | 考え方 |
一般部 壁・床・サッシ美装 | P.21「全体のハウスクリーニング(専門業者による)」にあたる→A(+G) | ゙賃借人が通常の清掃を実施している場合は次の入居者確保のためのものであり、賃貸人負担とすることが妥当と考えられる |
床 フローリングワックス掛 | P.17フローリングワックスがけ→A(+G) | ワックスがけは通常の生活において必ず行うとまでは言い切れず、物件の維持管理の意味合いが強いことから賃貸人負担とすることが妥当と考えられる。 |
水廻り除菌美装 (洗面所、トイレ便器) | P.21消毒(台所、トイレ) →A(+G) | 消毒は日常の清掃と異なり、賃借人の範囲を超えているので、賃貸人負担とすることが妥当と考えられる。 |
エアコンクリーニング | P.21エアコンの内部洗浄→A(+G) | 喫煙等による臭い等が付着していない限り、通常の生活において必ず行うとまでは言い切れず、賃借人の管理の範囲を超えているので、賃貸人負担とすることが妥当と考えられる。 |
ガイドライン(7頁7行目以降)及び最高裁判例(平成17年12月16日「敷金請求返還事件」)によれば、通常損耗や経年劣化の修繕費は家賃の中に含まれていることから、これらの原状回復義務を賃借人に負わせることは二重の負担を課すことになる。そのため、賃借人がこのような自己に不利益となる契約を結んだと認められるためには、補修の範囲や内容、費用等が契約書の条項に具体的に明記されていること、または、口頭の説明によって賃借人がそれらを明確に認識しその旨の特約(通常損耗補修特約)が明確に合意されていると認められることが必要だそうです。
しかしながら貴社と当方が合意した契約書には上記の記載は見られません。
よって、当方は敷金全額の返金を求めます。
数日後、施設側から「全額返金します」というメールが届きました。
言い訳もなし。
完全勝利でした!!
※ご興味があれば上の表とガイドラインの該当ページを照らし合わせてみてくださいね~
退去トラブルに役立つリンク
今回のトラブルで私が見つけたリンク一覧です。
この他、賃貸側である大家さん向けに「どうすれば借り主に原状回復費用を負担させることができるか」解説している弁護士ブログも役立ちました。(さすがにここにリンクを貼ることはできませんがw)
そこに書かれてるのと逆の内容であれば、原状回復費用は負担しなくてすむってことですからね!
これから賃貸契約される方はググられるとよいですよ。
「原状回復特約」などで検索すると出てきます。
リンク集
賃貸住宅の修繕の内容について細かく説明されています。
最高裁判例を始め、原状回復をめぐるその他の訴訟についての記載もあります。
都道府県から出ているガイドラインです。
東京、大阪以外もありますのでお住まいの地域のHPを確認してくださいね。
経年劣化や通常損耗の原状回復費用を借り主に負担させるとすれば特約の要件はどうあるべきかを明確にした裁判。
消費者が事業者と契約するとき、両者の間には情報の質・量や交渉力に格差があります。そのため消費者の利益を守るために施行されたのが消費者契約法です。
賃貸契約においては特に以下の10条が関わってきます。
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
老人ホームの退去トラブルの参考になります。
最後に。法律は弱者の味方です
賃貸契約はたいていの場合、事業者と個人(消費者)の契約になります。
となると強弱関係は明白です。
強い事業者が弱い個人に不利な契約を結ばせようとするのは十分考えられること。
だからこそ弱者の権利を守るために法律が整備されているんです
私たち個人(消費者)は法律に守られています。
でも、強い事業者は隙あらば私たちの無知につけこんできます。
賃貸契約において、とりあえずこれだけは頭に刻み込んでおきましょう。
また、賃借人による故意・過失・注意義務違反等による修繕義務であっても経年劣化が考慮されます。
必ずしも修繕費を全額負担しなければならない…というわけではありません。(全額負担になるものもあるようですが…)
賃貸トラブルには物件や貸し主、賃貸契約の内容、居住年数、借り主の住まい方など様々な要因が絡み合ってきます。
人によって事情が異なるので、判断が難しい場合は弁護士に相談されることをおススメします。
弁護士ドットコムでもよいですし、さらに詳しく話を聞きたい場合は自治体や各地域の弁護士会などで無料相談もやっています。
正しい知識をつけて自分の身を守りましょう!